「今年もどんどん目立っていこー!!!」ワカモノ3人、八王子の農業ベンチャー「株式会社FIO(フィオ)」
「最初はとにかく話題作りから入りました」
東京都八王子市にある「株式会社FIO(フィオ)」の代表 舩木翔平さん(27)は正直だ。
2012年、株式会社FIOが設立された時のことは筆者(小野淳)もよく覚えている。20代の若者が3人で農業を主体とする株式会社を設立し、WEBサイトも洗練された雰囲気を醸し出していた。
創業メンバーの3人 舩木(F)伊藤(I)大神(O)の頭文字をとってFIO(フィオ)とした社名もスマートな印象をあたえる。野菜の生産はもちろん、養蜂やイベントも手がけるということで当然メディアからも注目を集めた。
しかし、都市農業の現状を知るものからすれば、たとえ多少話題を集めたとしても3人の取り組みは、無謀な取り組みにみえた。まとまった売り先は確保できているのか?栽培技術は確立しているのか?地域の農業者などコミュニティとは良好な関係を築けているのか?そもそも耕作面積は?
3人の生活費を農業で確保することは簡単なことではない。社会人経験もまだ少ない彼らにその困難を乗り切る力があるのかはなはだ疑問だった。
しかし、2015年1月、農業者が集まる会合で顔を合わせたとき舩木さんは満面の笑みで「順調です」と答えた。
情報発信も積極的でメディア登場頻度も高い彼らがその後、更にスタッフも増やし、名のある取引先を増やし、ヤギ牧場のクラウドファンディングで資金集めに成功したということは知っていた。「設立2年、この満面の笑みか・・・」同業者としてちょっと嫉妬を覚えずにはいられない。彼らの事業に本気で興味をもった。
老舗牧場のインフラを活かしたオシャレ農場
「一度畑見学させてください」と申し出たところ「1月中は出荷があるんで、2月に入ったら」と快諾いただき、早速訪ねてみた。
彼らの本拠地は明治30年代から乳牛を育ててきた鈴木亨(とおる)さんの牧場にある。体調を崩して酪農は廃業。
酪農で使われていた施設を改装しFIOが事務所として使っている。
扉を開けるとお香の匂い。カラフルなイス、床面に描かれたイラスト。明らかに既存の農業者とは異質のものを持っていると来訪者に思わせる演出が整っている。
しかし異質な存在は農業界においてはとにかく目立つ。
単刀直入に「地の農家さんとの関係はたいへんじゃないですか?」と尋ねると「そりゃいろいろありますよ」と隠す様子もない。そこへ地主である鈴木さんがふらっとやってきた。鈴木さんは別け隔てのない様子で輪に加わり、この地の農業の歴史をお話してくださった。
牧場のある由木はニュータウン開発の対象地だった。宅地化が次々と進むなか鈴木さんは都市計画上の市街化区域(宅地開発等を目的とした区域)であった牧場を市街化調整区域(宅地開発に大幅な制限をかけ、農地等を維持する区域)に転用する「逆線引」を20年前にやり遂げた。
これはかなり珍しいケースで、それもそのはず、逆線引をすれば自らの資産価値が激減するのだ。もちろん、その分固定資産税も下がるので、ランニングコストは低くなる。通常はそれでも相続税の支払いなどの際に売却できるよう市街化区域に編入されることを望む地主が多い。鈴木さんはその道を選ばず、農業を継続させるために土地資産価値の減る市街化区域への編入を選んだ。
「いろんなチャレンジを応援してくれる鈴木さん無くしてはFIOは存在しない」と舩木さんがいうとおり、この場所無くしては今の形がなかったことは容易に想像がつく。そして鈴木さん自身も様々なチャレンジをし、独自のやりかたを貫いてきたのだということも伝わってきた。
実際FIOの活動も鈴木さんの牧場経営のインフラとノウハウを最大限に活用している。ヤギの繁殖や搾乳を前提としたレイアウトに、かつて牛舎として使っていたスペースはイベント会場として骨格は残したままリニューアルする予定だ。
野菜を洗って出荷用に調整する場所も、事務所もさしたる初期投資なしに完成した。条件としてはかなり恵まれているといえるだろう。
しかし一番気になるのは本来の農業経営がどうなっているのかということだ。現在、使用できている畑は7000㎡(7反・2300坪)程度。野菜の生産ではかなり頑張って売上は500万円といったところだろう。HPをみるとメンバーは13名、人件費はどうしているのだろう?
話題作りで終わらせない2015年のFIOは?
「今年の売上は野菜販売のみで1000万を目標にしてます。それ以外の収入も含め昨年比3倍が目標です。人件費は正直厳しいんですが、あと大神以外の専従ではないメンバーは、収益が上がったところで若干支払う程度です。」つまりほとんどのメンバーが「支払いはいいから農業を手伝わせてほしい」と集まっているというのだ。
実際、取材に伺っている最中もWEBを担当している井手さんがやってきて、仕事を始めた。スケジューリングは特に予定が入っていない限り皆自由なようだ。外からみると大胆に事業を広げているように見えるが、彼らにあまり気負いは見られない。
今後の展開をどのように考えているのだろうか?
「去年、いろいろ手を出したんですが、需要がはっきりと感じられたのが『良い野菜をつくってどんどん納品してほしい』という飲食店・青果店直納です。来年度はそこに軸足を定めていかに効率よく生産流通をできるか勝負しようと思います」
と舩木さんは堅実だ。飲食店でのFIO野菜への引き合いは大きい。大きなところでは「紅虎餃子房」の際コーポレーションや京王百貨店、JR八王子の駅ビルが挙げられる。作ればすべて納品できる状態が続いたという。
「生産に本気で取り組むと、いままで続けてきたイベントの拡散のほうが弱くなると思いますが、単発で100人規模の大きなイベントはやりたいんですね。そこも課題ですね」
舩木さん・伊藤さん27歳、大神さん32歳。何事も順風満帆ということはありえないと思うが、めげずに継続してゆけば確実に都市農業界の先駆者となるであろう注目株だ。
紹介ありがとうございます。
今までの来訪された方の中で、一番、ユギムラ牧場を詳しく
見てくれた方は初めてです。
農業の取り巻く現実を知っていなければ
理解できないものと思っています。
ありがとうございます。